笑顔

仕事を唯一の生き甲斐とし　生涯現役を貫いた人
明治生まれの如く何事にも厳しかった
けれど性根は情に厚く心優しい人であった

父83歳
若い頃より病院と縁がきれない身体ではあったけれど
それなりにがんばっていた　
ほんとにがんばっていたと思う
そんな父に　今年の冬は特に寒く厳しかった
痛めつけられるよう日に日に細くなってしまった

「冷えきった手が痛いんだ」　
と白く力のない手を出す
私は両手で擦って温めた
少しでも楽になりますようにと　ついつい力が入る

「皮がよじれて痛いよ」
父が眼を細めて笑った
「骨皮筋衛門だもの…」
私も笑った

最期に見た笑顔だった
その気性を知るだけに　病床の切なさがよくわかる
やっとやっとの笑顔だけど　とても優しかった
ずっと忘れないだろうと思った
今までほんとうに心配ばかりかけてきた
申し訳ない思いでいっぱい…
だからこれからは　
うれしいことや楽しいことをいっぱい話そう
話せるように努力していこう
私たちが笑顔で手を合わせられるように